九大原子核セミナー

九州大学の原子核理論と原子核実験の共同開催のセミナー

第875回九大原子核セミナー

2010年9月29日(水) 16:00

講師:中村 真 氏(京都大学)
演題:AdS/CFT 対応と非平衡物理学:
    AdS/CFT による負性微分抵抗の導出と励起子絶縁体
場所:理学部・物理・第三講義室(理学部2号館2階2249室)

概要:
AdS/CFT対応とは、ある種の強結合量子ゲージ理論と高次元古典重力理論の間の対応関係であり、これを用いるとゲージ理論側の非摂動的解析を重力理論を用いて比較的容易に行うことができる場合がある。また、重力側でブラックホール時空を考えると、実時間に加えて温度の概念も自然に導入されるため、有限の温度のゲージ理論系を「実時間形式」で扱うことが可能となる。さらに散逸の存在する状態を用意することも可能であり、この意味で非平衡ゲージ理論系の扱いが少なくとも部分的に可能である。ここでは、ある種の超対称ゲージ理論のクォークに外力を加えた時の応答を計算し、クォーク電荷の意味での電気伝導度を非線形領域まで含めてほぼ解析的に計算する。非線形電気伝導度の計算は、1)電流による散逸があるため非平衡定常系であり、2)線形応答を超えた非線形効果であり、3)絶縁体・金属転移を伴う系を考えるため非摂動的解析が必要である、という意味で「非平衡・非線形・非摂動」の解析が必要であるが、AdS/CFT対応は、少なくともある特殊な場合ではこれらの困難を克服している。具体的には、外部電場によりクォーク・反クォーク対が解離した後の「クォーク・グルーオン・プラズマ」中のクォーク電荷の非線形電気伝導の振る舞いを解析し、あるパラメータ領域では負性微分抵抗が見られることを示す。負性微分抵抗とは、流す電流を増やすと物質中の電場が「下がって」しまう、通常と逆の振る舞いをする特異な電気伝導現象である。この現象は強相関電子系の絶縁体(モット絶縁体など)などで一般的に見られるが、強相関絶縁体の負性微分抵抗発現メカニズムは、完全には理解されていない。ここで得られた負性微分抵抗は強相関絶縁体のそれと定性的に一致し、物性理論への何らかの示唆を与えるものと考えられる。また励起子絶縁体と、ここで考えるゲージ理論の類似性にも言及し、励起子絶縁体の非線形電気伝導に対する示唆も与えたい。
875.pdf
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