九大原子核セミナー

九州大学の原子核理論と原子核実験の共同開催のセミナー

第914回九大原子核セミナー

2013年10月23日(水) 16:30

講師:水山 一仁 氏 (大阪大学 RCNP)

演題:連続状態粒子振動結合法に基づく核構造・核反応の統一的記述

場所:理学部 物理大学院講義室(理学部2号館2階2263室)

概要:
有効核力に基づいた自己無撞着な平均場理論の整備により、不安定核(主に中性子過剰核)を含む非常に広範な原子核の基底状態ならびに励起状態の構造の解明が進んでいる。陽子と中性子のバランスが大きく崩れ、弱束縛な余剰中性子を多く抱える不安定核では、特有の基底状態構造や集団励起構造が存在する可能性が示唆されており、不安定核は新規な物理の宝庫とみなされている。しかしそのような不安定核の特性を実験的にどのようにして実証するかは、依然として大きな課題である。
不安定核や非束縛状態(非束縛核)は極めて短寿命であるため、その性質は散乱実験の観測量の解析から引き出されることがほとんどである。しかしその際、反応計算に不可欠な 光学ポテンシャルが現象論的に決められていないことが多く、反応計算にはその不定性がつきまとう。また、反応計算に用いられる構造の波動関数は著しく簡略化されることがしばしばであり、実験データの解析から得られる核構造には限度がある。これらの問題を解決するためには、有効核力に基づいた自己無撞着な構造理論から自己無撞着な光学ポテンシャルを導出し、フリーパラメータや現象論的な光学ポテンシャルに依存しない断面積の計算が必要不可欠である。我々が開発した連続状態粒子振動結合法(cPVC)は、そのような計算を可能にした画期的な研究手法である。
粒子振動結合法は、弾性・非弾性・核子捕獲チャネルを考慮した一種のチャネル結合法であり、フェッシュバッハの射影演算子法によれば、自己エネルギー関数の虚数部分は非局所光学ポテンシャルと解釈できる。ただしこれまでの粒子振動結合法は離散基底を用いてきたため、核反応への応用はほとんど行われていない。一方、cPVC 法では、連続状態を厳密に扱っているため、この困難は生じず、光学ポテンシャルならびに散乱断面積を、極めて自然な形で定式化することができる。また、ハートリーフォック(HF)法で求める一粒子状態、連続状態 RPA 法で求める振動状態、そしてそれらの状態間の結合を、単一の有効 2 核子間相互作用(以下、有効核力)に基づき自己無撞着に記述することも cPVC の重要な特徴である。以上の特徴により、cPVC 法は有効核力に基づいた自己無撞着な構造理論から自己無撞着な光学ポテンシャルを導出し、フリーパラメータや現象論的な光学ポテンシャルに依存しない断面積の計算を可能にした。
我々はこれまでに cPVC 法を 16O を標的にした中性子弾性散乱、208Pb、24O を標的とした陽子非弾性散乱の断面積を計算し、実験データとの非常に良い一致を得た。また、16O を標的にした中性子弾性散乱においては、低入射エネルギーに見られる戸口の状態(断面積に見られる鋭いピーク)が cPVC 法によって再現できることも確認された。これは中性子と 16O という反応系の詳細な構造を cPVC が正しく記述できていることを意味している。

q914.pdf
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