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原子核構造 Nuclear Structure


原子核構造について簡単に説明します。

原子核構造
原子核は有限個の核子(中性子と陽子)からなる量子力学的多体系で、自然界の中で原子核はある意味ではかなり特異な系です。 すなわち、核子間に働く核力は強い相互作用であるにもかかわらず、原子核の密度はそれほど高くはない。 むしろ、低密度であり、核力の作用半径と平均核子間距離とがほぼ同程度です。 また核子数は数個からたかだか300個程度で、いわば少数粒子の多体系です。 これらいろいろな意味で中くらいの性質を持っています。 それだけに原子核は、質量数やエネルギーやその他の状況の変化に応じて、さまざまな側面―“顔”−を見せます。

原子核には2つの顔があり、1つは、殻模型の顔です。 この模型は、原子核内のそれぞれの核子が核力と呼ばれる「強い相互作用」で平等に引き合い、平均ポテンシャルを作り、 それぞれの核子はこのポテンシャルの中を独立に運動するという描像が良く成り立ちます。 このような描像に基づき、原子核において実験で観測されたすべての魔法数(原子核が特に安定となる陽子や中性子の個数)を説明してきました。

他の1つは、“集団運動的描像”あるいは“強結合的描像”です。この典型の1つには、原子核を水滴になぞらえた液滴模型があります。 この模型は、核内核子が独立粒子運動ではなく、核子間の相関が比較的強く、全体として歩調を合わせた運動を行うという考えに基づいています。 液滴模型は原子核の質量(結合エネルギー)を大局的によく説明することができるベーテ・ワイゼッガーの質量公式の基礎となっています。

この2つの一見矛盾しているかのような概念を無理なく統一して理解することを可能にしたのが集団模型(統一模型)です。 この模型では、集団運動の巨視的な回転・振動運の自由度および粒子運動の自由度は、すべて原子核を構成する核子の各々の自由度から成り立っているという理解のもと、 集団運動の微視的理論が試みられました。原子核の集団運動は、安定な原子核の基底状態に近い比較的低い励起エネルギー領域において扱われてきました。 したがって、扱ってきた変形(回転)核の回転運動も、割合ゆっくりとした回転であり、状態のスピンもあまり大きくなく、 また変形の大きさもそれほど大きくないものとして考えてきました。 しかしながら、近年実験技術の進展によって、“高スピン状態”すなわち“高速回転状態”に関する多くの実験データが得られ、 また高速回転状態において実現する“巨大変形”についての情報も得られるようになってきました。 このような高スピン回転運動を調べることによって、独立粒子運動と集団運動の統一という統一模型の考え方の理解をより一層深めることができると考えられています。

最近では、不安定核の中に、大きく球形から変形した原子核や分子と似通った構造をもつ原子核が、理論的に予言されています。 これらの原子核は、安定核には無かったもので、注目をされています。 また、安定な原子核の外を複数の中性子が回る、ハロー原子核も見つかっており、外の複数の中性子の間にどのような力がはたらいているか、 超流動現象との比較から、その力の解明は大きな課題となっています。 原子核構造論では有限多体系の量子論を用いますが、その解法は困難な問題として知られており、チャレンジングな分野です。

研究内容;
1. 平均場近似に基礎を置き、より高次の相関を取り込んだ多体論的手法を用いて 原子核構造の研究を行なっている。 特に、原子核の特徴的運動様式の一つである集団運動の理論的研究を中心としているが、 現在は主として、巨大変形・高速回転 という極限状況での原子核の構造を微視的立場から研究している。 具体的には、巨大変形した回転状態である超変形回転バンドにおける新しい殻構造や集団的 振動状態、 また、回転軸が主軸から外れたような新しい回転様式に従う集団的回転状態など、基底状態近傍では見られない励起状態の研究を進めている。

2. また、最近では陽子数と中性子数が大きく異なるような不安定核の研究が、 世界的にも進展してきており不安定核での集団運動にも興味を持っている。 特に、ドリップ線近くの中性子過剰の不安定核では、中性子の密度分布が陽子の分布とは かなり違って外側に広がっていること、 また、中性子の粒子的励起状態はほとんど原子核に束縛していない連続状態になっていることから、安定核とは全く違った 性質を持つと期待される。 このような不安定核の理論的な研究も始めている。




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   Nuclear Theory Group, Department of Physics, Kyushu University