九大原子核セミナー

九州大学の原子核理論と原子核実験の共同開催のセミナー

第879回九大原子核セミナー

2010年11月29日(月) 16:00

講師:森田 健司 氏(GSI)
演題: 複素化学ポテンシャルを用いたQCD相転移の研究
場所:理学部・物理・第三講義室(理学部2号館2階2249室)

概要:
格子QCDにおける数値シミュレーションは、非摂動効果を取り入れたQCDの第一原理計算であるが、有限のバリオン数化学ポテンシャルを持つ系には符号問題が存在し、限られた領域においてしか有用な結果を得ることができないことが知られている。このような困難を回避する手法のひとつが、物理的ではないが符号問題が存在しない領域である、純虚数の化学ポテンシャルにおいてシミュレーションを行い、その結果を解析接続する手法であり、虚数化学ポテンシャルにおいても、特徴的な相構造が見出されてきた。

本研究の目的のひとつは、それらの特徴的な構造がQCDのどの性質によるものかを明らかにし、また実数化学ポテンシャルにおける物理量との関連を調べることである。有限温度・密度ではカイラル相転移と閉じ込め−非閉じ込め転移が存在すると考えられるが、実数化学ポテンシャルとの関連を考えるには、符号問題を気にする必要がない模型を用いる必要があり、両方の転移をもつ模型として、Polyakov-Nambu-Jona-Lashinio模型の平均場近似の枠内での計算を行った。特に、Sakaiらによって、虚数化学ポテンシャルにおいては、QCDのグルーオンセクターがもつZ(3)対称性に起因するRoberge-Weiss周期性を持つことが示されており、この模型は本研究の目的には最適なものであるといえる。模型ではグルーオンセクターをPolyakov loopの有効ポテンシャルで近似するため、格子計算を再現するパラメータの枠内でも不定性が存在する。本研究では、いずれも広く用いられている多項式型と、対数型について、それらがもともともつ有限温度での一次相転移が、NJLセクターによって与えられるクォークの効果によってどう変化していくかを解析した。

また、虚数化学ポテンシャルに対する物理量の特徴的な依存性にもとづき、新たな閉じ込め−非閉じ込め転移のオーダーパラメータについても議論する。
格子QCDにおける、もう一つの方法は、ゼロ化学ポテンシャルの周りでのTaylor展開があげられる。この手法では、展開の収束半径が重要になるが、それは複素化学ポテンシャル平面上における特異点構造に関係している。時間があれば、最近の我々の試みである、等角写像を用いて臨界点を探索する手法についても紹介したい。
879.pdf
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