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jump 2007年 6月16日更新 

研究室紹介


研究室における研究 / 各教員の研究 / 特別研究(4年生)について / 卒業生の進路

理論核物理研究室について
本研究室では、ハドロン物理原子核反応論原子核構造論の3つの研究しており、原子核・ハドロン分野のほぼ全域をカバーしています。

ハドロン物理とは、メソンやバリオンの性質を解明する分野です。代表的なバリオンは核子です。バリオンは、主に、三つのクォークから構成され、その周りをグルーオンが飛んでいると考えられています。(図1参照)
また、メソンは主にクォークと反クォークからなると考えられています。(図2参照)

図1

図2
この物理を解明するには、量子色力学(QCD)を用いますが、このQCDは、その解法が困難なことで有名な場の理論であり、ハドロン物理の本質は未だ十分に理解されていません。このように、ハドロン物理は非常にチャレンジングな分野です。(図3参照)
図3
原子核反応論とは、原子核と原子核を衝突させたときに、その衝突時にどのような現象が起こるかを解明する学問です。この原子核反応論では、散乱の量子論を駆使して、少数体系の散乱現象を解明します。最近、不安定な原子核を標的核に衝突されることが、実験的に可能になってきました。この不安定核反応実験は、世界中の大きな研究所で行われております。この不安定核反応を用いて、未だ解明されていない不安定核の性質が解明されつつあります。本研究室は、この分野で世界的な業績を上げています。この原子核反応は、天体核物理、宇宙核物理を支える重要な基礎分野でもあります。(図4、図5参照)

図4

図5
原子核構造論とは、原子核の構造を解明する分野です。原子核の運動は、主に、表面振動と回転によって表す事ができます。最近、不安定核の中に、大きく球形から変形した原子核や分子と似通った構造をもつ原子核が、理論的に予言されています。これらの原子核は、安定核には無かったもので、注目をされています。また、安定な原子核の外を複数の中性子が回る、ハロー原子核も見つかっており、外の複数の中性子の間にどのような力がはたらいているか、超流動現象との比較から、その力の解明は大きな課題となっています。原子核構造論では有限多体系の量子論を用いますが、その解法は困難な問題として知られており、チャレンジングな分野です。(図6参照)
スタッフの研究内容

八尋 正信

  1. 高次元重力理論によりハドロン物理
    QCDは摂動的に解くことが出来ない場の理論であり、このことがQCDの理論的解明の大きな障壁となっている。この困難を解決するアイデアとして、gauge/gravity対応に注目する。この対応は、ゲージ理論と等価な重力理論が存在するという仮説であり、実際、N=4の超対称性ゲージ理論とAdS5・S5(5次元のAnti-de-Sitterと5次元球)時空をもつ10次元重力理論が等価であることが指摘された。その後、模式図1に示すように、QCDと等価な重力理論の探査が続いているが、超弦理論を用いたtop-down方式の探査は、未だ成功していない。その一方で、QCDと等価な重力理論をハドロンの観測量から現象論的に構築してゆくbottom-up方式が注目されてきている。現在のこの研究に着手している。図2は、典型的高次元時空としての5次元時空を示している。平面は我々の4次元時空を表し、zは5次元目の次元である。この余分の次元には、負の大きなのエネルギーがあると考えられている。このような世界観とハドロン物理がどのように関係しているのであろう。興味深い問題である。

     

  2. 有限温度・有限密度のQCD
    温度や密度を上げて行くと、QCDは閉じ込め相から非閉じ込め相へと相転移することが知られている。しかし、その相転移の性質は、未だ明確には解明されていない点も多い。さらに、ハドロン(メソンとバリオンの総称)が、温度や密度の変化によってどのような振る舞いをするかは、興味深い課題として、現在、世界中で研究が進められている。本研究室では、格子ゲージ理論と有効理論の両方の側面から、研究が進められている。この有限温度・有限密度のQCDの解明は、中性子星やクォーク星のような重い星の中心部の解明と密接に関わっている。下図は、QCDの典型的相図を描いたもので、縦軸が温度、横軸が密度である。(Stephanov、Hep-ph/0402115 より引用)



  3. 少数体系の反応理論の構築と不安定核物理への適用
    三つの粒子が互いに衝突する現象を、3体反応と言う。長年、この3体反応の研究をして、高精度・高速に3体反応を理論解析する方法を開発した。この方法は、現在、離散化チャネル結合法と呼ばれ、世界中で使われている。この理論の発展として、4体反応を取り扱う理論の構築中である。これらの理論は、不安定核反応の実験解析に有効なため、それらの反応の解析も進めている。

  4. 核物理の宇宙物理への応用
    原子核反応理論は、初期宇宙の物理であるビッグバン元素合成や超新星爆発時の元素合成と密接に関係している。ビッグバン元素合成とは、宇宙初期の3分間に起こる元素合成で、軽い元素はこの時期に作られたと考えられている。3の研究課題の不安定核反応の解明は、密接にこの元素合成物理を通して、宇宙物理や天体物理に影響を与える。この視点からも、不安定核反応の解明を行っている。

清水 良文

  1. 平均場近似に基礎を置き、より高次の相関を取り込んだ多体論的手法を用いて 原子核構造の研究を行なっている。特に、原子核の特徴的運動様式の一つである 集団運動の理論的研究を中心としているが、現在は主として、巨大変形・高速回転 という極限状況での原子核の構造を微視的立場から研究している。具体的には、 巨大変形した回転状態である超変形回転バンドにおける新しい殻構造や集団的 振動状態、また、回転軸が主軸から外れたような新しい回転様式に従う集団的 回転状態など、基底状態近傍では見られない励起状態の研究を進めている。

  2. また、最近では陽子数と中性子数が大きく異なるような不安定核の研究が、 世界的にも進展してきており不安定核での集団運動にも興味を持っている。特に、 ドリップ線近くの中性子過剰の不安定核では、中性子の密度分布が陽子の分布とは かなり違って外側に広がっていること、また、中性子の粒子的励起状態はほとんど 原子核に束縛していない連続状態になっていることから、安定核とは全く違った 性質を持つと期待される。このような不安定核の理論的な研究も始めている。

緒方 一介

  1. 原子核反応の研究を広く行っている。主な研究対象は軽い不安定核で、特に太陽内元素 合成過程の正確な記述に取り組んでいる。この研究はいわゆる太陽ニュートリノと密接に関係しており、ニュートリノの性質を探る という大きな課題に重要な寄与を果たすものと期待される。

  2. 一方、放射線治療や核廃棄物処理といった応用技術と直結した反応過程 の解析にも携わっており、複雑な過程を極めて見通しよく定式化する半古典歪曲波模型を駆使して、高次の過程を取り入れた信頼性 の高い理論解析を展開している。後者の研究は原子核中におけるハイペロン生成過程にも関係しており、核子-ハイペロン間相互作用 を正確に決める手法のひとつとして注目されている。

特別研究について(4年次)
  • 2007年度
    研究課題:
    担当:
    回数:
    内容:

  • 2006年度
    研究課題:前期 『素粒子・原子核物理入門』(B.ポップ、K.リーツ、C.ショルツ、F.サッチャ著)の輪講, 後期 各人それぞれのテーマに取り組む
    担当 : 前期 清水, 後期 八尋、清水、緒方
    回数 : 毎週2回。また一年間の最後に前期・後期で学習した内容をまとめて、研究室内で成果発表を行なう。卒業論文は課さない。また、強制はしないが大学院生を交えた研究室のセミナー等にも参加することが求められる。
    内容 : 近年、量子色力学(QCD)理論を基礎にして、 原子核を含むハドロン多体系を研究することが盛んになってきている。 他方、核子多体系の物理としての原子核固有の研究においても、 加速器や観測装置の発展により自然に存在する場合とは 全く異なった極限状態のもとで原子核を研究する事が可能となり、 原子核の示す新しい様相が明らかになりつつある。
     このような現状において、原子核物理学の本格的研究を始める前に、 素粒子・原子核物理の基本的事項を少し広い視野から勉強することは、 大変意義のあることであると思われる。 この教科書では、現在までに得られた素粒子・原子核物理学の重要な知見が、 かなり手際良くまとめられており、 将来必ずしも原子核物理学の研究を行なわない人にとっても、 その知見は基礎的素養として将来的にも役立つと信ずる。
      この特別研究では1年間継続を前提とする。 前期は、毎週2回(1回は教員と学生、もう1回は学生のみで)集まって討論を 行なう輪講形式で学習を進めていく。 この時、一人が発表者となって教科書の担当部分の内容を説明し、 それに対して全員が質問等をして理解を深める。このように教科書の内容を 理解し整理するだけでなく、他の人に説明する能力が要請される。 目標は、教科書の第I部を終えることである。 ただし、学生諸君の希望に応じて予定は変更可能である。
     なお、勉強の前提となる学力については、力学・電磁気学などの基礎的素養 に加えて、量子力学の初歩的な部分は必須である。自信のない人は 本特別研究を始める前に勉強し直しておくことが必要である。
     前期の輪講によって、原子核物理(ハドロン物理を含む)の基本的な ところを勉強した後に、後期ではそれぞれの学生の希望に応じて、より 深い原子核物理の学習に進むことを考えている。 すなわち、前期で学習した内容またはその周辺で興味を持ったテーマについて、 別の教科書や原著論文を読むことにより最新の研究に近いところまで進む予定で ある。

  • 2005年度
    研究課題:『量子色力学とハドロン物理』
    担当 : 八尋
    回数 : 週2回、午後から2〜3時間程度。卒論はなし。ただし年度末に研究報告会を実施する予定。卒研以外のときも、昼間は研究室に滞在し勉強することを原則とする。(院生と同じ生活をし、研究の醍醐味に接してください。)このため、研究室に机を用意する予定。
    内容 : ハドロン物理は素粒子物理と原子核物理の境界領域で、活発な研究がなされている。特に、様々な新粒子の発見、新しい相転移の発見が注目されている。この最先端の分野の研究の第一歩として、相対論的量子力学、場の理論の初歩、量子電磁気学、対称性と保存則、クォークモデル、量子色力学を習得する。前期は、相対論的量子力学、場の理論の初歩、量子電磁気学の習得を目標とする。残りは、後期に学習する。前期の教科書は、「素粒子物理学の基礎I」(朝倉書店、長島順清著)、後期は「素粒子物理学の基礎II」(朝倉書店、長島順清著)を予定している。しかし、セミナーのスピードは理解度にあわせるので、予定が変わる可能性がある。2回のセミナーの内、1回は学生と教官で行い、残りの1回は、学生の主体性を育てるために、学生だけの自主ゼミとする。1年間興味を持続させ、“おはなし”レベルではない研究を成し遂げることは、決して楽ではないことを付記しておく。配属されるまでに、量子力学I,IIの内容をよく復習し理解しておくことが望ましい。
卒業生の進路
  • 博士課程卒業生の多くは、各地の大学の教員、国立共同研究所のスタッフになっている
  • 博士課程進学でない修士課程の卒業生の場合は、原子核理論の研究とは直接関係ない分野に就職している。 その就職先は多方面に渡っている。 例えば、企業の研究所・研究部門、国家公務員の研究職、新聞記者(科学関係の担当)、ソフトウエアの会社の開発部門、などである。
  • 特研生のほとんどは九大その他の大学院に進学している。

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Nuclear Theory Group, Department of Physics, Kyushu University