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ハドロン物理 Hadoron Physics


ハドロン物理
ハドロンは,素粒子であるクォークによって構成される粒子の総称で,バリオンとメソンと呼ばれる二つのグループに分類されます. バリオンには,馴染み深い粒子として,原子核を構成する陽子や中性子があります.これらの粒子は3個のクォークで構成されています. そしてメソンには,π中間子やσ中間子があります. これらの粒子は2個のクォークで構成されており,バリオン間の相互作用を媒介するという性質があります. ハドロンを理解するためには,その構成粒子であるクォークの力学が必要となります.

クォークを記述する力学は,量子色力学(Quantum Chromodynamics,QCD)と呼ばれるSU(3)非可換ゲージ理論です. そしてクォーク間に働く力のことを「強い相互作用」と呼び,その媒介粒子をグルーオンと呼びます. この理論では,量子電気力学(Quantum Electrodynamics; 以下,QEDと呼びます.)において1種類の電荷があったのに対して,3種類の色電荷(赤,緑,青)が存在します. しかし陽子や電子のように電荷をもった粒子が観測できることに対して,色電荷は観測ができず,観測ができるのは総色電荷が白になっているハドロンだけです. このことを「色の閉じ込め」(もしくは,クォークの閉じ込め)と言います.この性質を含めて,QCDにはいくつかの重要な性質があります.

QCDの特徴
1.漸近自由性
2.色の閉じ込め
3.カイラル対称性の自発的破れ

これらがQCDの最も代表的な性質と言えます. 1つ目の「漸近自由性」とは,結合定数が高エネルギー領域(例えば,高運動量)で非常に小さくなる,つまりクォークが自由粒子のように振る舞う性質のことです. この性質のため,高エネルギー領域では摂動計算を用いることができ,現象を解析することができます. またこの性質の発見は,2004年のノーベル物理学賞受賞理由(受賞者はグロス,ポリツァー,ウィルチェックの三名)となっています. しかしその一方で低エネルギー領域では摂動計算を用いることができません.そのためそのようなエネルギー領域では非摂動的な取り扱いが必要になります.

2つ目の「閉じ込め」とは色電荷が観測されずに,総色電荷が白になっているハドロンだけが観測されるという性質のことです. この性質は低エネルギー領域における性質のため,QCDから証明するには非摂動的に取り扱う必要があります. そして現在までのところ,1974年にウィルソン(1982年に繰り込み群の研究が評価され,ノーベル賞受賞)によって提唱された格子QCDと呼ばれる手法を用いて,数値的に証明されています. しかし数学的に証明はなされておらず,「ヤン・ミルズ理論とmass gap」という題目でミレニアム賞問題(解けたら,賞金100万ドル)7問の1つになっています. そして仮にエネルギーを与えて,クォークを取り出そうとするとどのようになるかをあらわしたのが以下の図です. 簡単のため,クォーク・反クォークでできたメソンで見てみます.クォーク・反クォークを引っ張ると,その間にはバネの様にエネルギーが蓄えられます. そのエネルギーがある値を超えると,バネに蓄えられたエネルギーからクォーク・反クォークの対が生成されます.その後,2つのハドロンに分離します. こうして色電荷をもったクォークは観測できず,常にハドロンとなっているわけです.

3つ目の「カイラル対称性の自発的破れ」とは,陽子や中性子の質量の起源を知る上で重要な現象です. ここに出てくるカイラル対称性には,馴染みがないかもしれませんが,質量0の粒子が厳密にもつ対称性です. u,dクォークはわずかなカレント質量(約5.5 MeV)を持っていることが実験から知られています. しかし,この質量を単純に3倍してもu,dクォークからできている陽子や中性子の質量(約1GeV)には遠く及びません. そこで,逆にクォークが何らかの現象によって,核子の1/3の質量(約300 MeV)を持っていると考えてみましょう. このように考えると,核子の質量はもちろん再現できます.しかし今度は,u,dクォークからできているπ中間の質量(約140 MeV)をはるかに越えてしまいます. この謎に答えたのがカイラル対称性の自発的破れという現象です.

「自発的破れ」というのは,ラグランジアンが持っていた対称性を真空(もっともエネルギーの低い基底状態)が持っていないことをいいます. そして対称性(今の場合カイラル対称性)が自発的に破れることによって,質量のある粒子と質量をもたない粒子が生成されます. QCDにおけるカイラル対称性は近似的な対称性(クォークの裸の質量がゼロでないことによる)であるため,自発的に破れても完全に質量が0の粒子はでてきません. その代わりに質量の軽いπ中間子が現れます. さらにカイラル対称性が,質量0の粒子が厳密にもっている対称性であった事を思い出してもらえば,この対称性が破れる事によってクォークは構成子質量を得る事になるわけです.



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   Nuclear Theory Group, Department of Physics, Kyushu University