九大原子核セミナー

九州大学の原子核理論と原子核実験の共同開催のセミナー

第936回九大原子核セミナー

2017年3月7日(水) 16:30〜18:00

講師:柏 浩司 氏 (京都大学)

演題:虚数化学ポテンシャルを利用した非閉じ込め相転移の研究 〜トポロジカルな観点から〜

場所:ウェスト1号館7階 物理会議室 (W1-A-711室)

概要:
 本研究では、QCDの有限温度における閉じ込め・非閉じ込め相転移を、トポロジカル相転移の観点から研究した。特に、凝縮系物理分野において近年注目を集めているトポロジカル秩序との類似を利用した。トポロジカル秩序の研究では、基底状態の縮退がその分類で重要な役割を果たす。しかし、その議論はゼロ温度でのみ成立し、非閉じ込め相転移が期待される有限温度への拡張は容易ではない。そこで基底状態の縮退との類似として、虚数化学ポテンシャル領域における自由エネルギーの非自明な縮退による非閉じ込め相転移の定義を提案した。
 虚数化学ポテンシャル領域は、これまでの多くの研究では実数化学ポテンシャル領域を研究するための補助的な量として用いられてきた。一方、本研究では虚数化学ポテンシャル領域での非自明なトポロジカルな構造が重要な役割を果たす。その意味では,、虚数化学ポテンシャルはもはや補助的な量ではなく、その領域での特異な構造を利用することで閉じ込め・非閉じ込め相転移をトポロジカル相転移の立場から定義することが可能となる。
 本講演では、虚数化学ポテンシャル領域で現れる自由エネルギーの非自明な縮退を通じて、どのようにして閉じ込め・非閉じ込め相転移が記述され得るかを説明する。また、その観点に基づく新たな量子的秩序変数を提案する。その秩序変数は、虚数化学ポテンシャルにおけるクォーク数密度の振る舞いを反映し、閉じ込め相でゼロとなり非閉じ込め相でゼロで無い有限の値を取る。更に、非閉じ込め相転移の密度依存性を調べるための第一歩として、アイソスピン化学ポテンシャルでのQCD有効模型を用いた計算を紹介する。具体的内容は下記論文[1]、[2]及び[3]に基づく。

参考論文
[1] K. Kashiwa and A. Ohnishi, Phys. Lett. B750 (2015) 282.
[2] K. Kashiwa and A. Ohnishi, Phys. Rev. D 93 (2016) 116002.
[3] K. Kashiwa and A. Ohnishi, arXiv:1701.04953.

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第935回九大原子核セミナー

2017年3月1日(水) 16:30〜18:00

講師:渡邉 慎 氏 (理化学研究所)

演題:変形ハロー核の動的性質と静的性質

場所:ウェスト1号館7階 物理セミナー室2 (W1-A-722室)

概要:
中性子ハロー核とは、コア核に数個の中性子が極端に薄く広がった構造を持つ原子核のことである。11Liや11Beはその典型例であり、現在では、31Ne(30Ne + n)や37Mg(36Mg + n)まで実験的にハロー核として確認されている。このように新たに発見された重いハロー核は、いわゆるisland of inversionの物理とも関連しており、そのコア核(30Neや36Mg)は大きく変形していることが予想されている。このようなハロー核は「変形ハロー」と呼ばれ、ハロー核の新たな存在形態として注目を集めている。変形ハロー核内では、コア核が変形に伴う回転励起(コア励起をしており、その結果、様々な1中性子状態の重ね合わせとして基底状態が形成される。これはコア励起がハロー核の構造にもたらす静的効果といえる。一方で核反応を考えた場合、コア核は散乱過程で励起・脱励起を繰り返すことになる。これは、コア励起が核反応に与える動的効果といえる。これまでの反応理論ではコア励起を無視した計算が主流であったため、標的核が中性子を叩くことで分解を引き起こすという機構のみが陽に扱われていたが、現実的には、標的核がコア核を内部励起させることによる分解機構も存在する。原子核が重くなる程コア励起の自由度は重要になるため、これらの分解機構の競合を統一的に記述するための理論的整備が必要不可欠である。

このような背景を踏まえ、本研究では変形ハロー核の構造と反応を統一的に記述する理論の構築を目指す。核構造模型として粒子・回転子模型 (Particle Rotor Model: PRM)を用い、その後、歪曲波ボルン近似 (Distorted Wave Born Approximation: DWBA)を用いることでコア励起の静的効果と動的効果を明確に評価する。本発表では、できる限り初歩的な量子力学の知識を用いて、ハロー核をどのよに見てきたかについての個人的見解を述べ、その後、研究の進展及び展望を述べる。

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